「パパ」


声と共に執務室の扉が開き、シオンは仕事の手を止めた。
扉の脇から顔を出した娘がうさぎのぬいぐるみと一冊の
絵本を持って立っている。

「どうしたんだ、もう寝る時間だろう」

シオンが部屋に戻そうと近づくと娘はハイと絵本をシオン
に向けてよこした。

「読んで」

寝る前にはいつも母親に頼むのに今日に限って自分に頼む
のが不思議だった。その思いを正直に娘に伝えると、

「だってママに頼むと泣いちゃうんだもの」

と言われた。ペンギンの絵が描いてあるその絵本には見覚
えがある。

(まだこの本で泣けるのか…。あいつ、精神年齢いくつなんだ?)

「…仕方ない、少しだけだぞ」
「わ〜い!」
ソファに座ったシオンが手招きすると娘はその膝の上に
ちょこんと座る。シオンは懐かしい絵本を開いて娘の頭
に顎をのせ、絵本を読み始めるのだった。